江口カン×鶴田光介

沖縄と福岡、もの作りにかける思いは一緒。最高に面白い作品を生み出すにはどうしたらいいか。
ワンダーの社外取締役でもある空気株式会社江口会長とワンダーリューキュー社長の鶴田が、沖縄の魅力と可能性について、珍しく真面目に語り合った。
(2015年・夏)

自分の中にホラーがないことに気づいた「オキナワノコワイハナシ」

鶴:ドラマ(江口カン監督・鶴田脚本のオキナワノコワイハナシ2015「アイドル」)お疲れ様でした。
江:お疲れ様でした。本当にありがとうございました。
鶴:大変だったけど真剣に作って楽しかったです。去年も作って2年目で違いはありましたか?
江:1年目(オキナワノコワイハナシ2014「チエコの霊」)にあんなことになってしまい…。良くも悪くも(笑)
鶴:怖いのが最初の1分だけっていう。
江:そこから山田(優樹=プロデューサー)さんとかからも色々ゾンビ映画とか紹介してもらって見て、今年は純粋にホラー部分を楽しめたっていうか。よくよく見てみるとホラーって手法とかもの凄い勉強になる。間を作って、引っ張って、じらしてとかあるいは視聴者が思っているのを裏切ってとか、ものすごい勉強になりました。
鶴:去年は、ワンダーで制作が決定したあとに、江口さんから「自分の中にホラーがないことに気づいたから、怖いのはやめた」って言われたんですよ。焦りました(笑)
江:そうそう(笑)
鶴:結果、「チエコの霊」はあれで良くて!twitterの反応が凄く良かったですね。
江:意外とみんなね、怖い話かと思ったけどウルウルみたいな。
鶴:AmazonでDVDが売っていて、レビューもいいこと書いてありましたよ。
江:Amazonで売っているんだ!買おう!
鶴:できれば3回やりたいですね。3つ1セットにして。
江:何でもそうなんだけど、3回やって初めてわかるっていうか。CMも最初やった2本は酷いもので。
鶴:えー!?
江:3回やるとなんとなくわかるっていう。
※その後、翌年に「デンパ」を制作し、晴れて三部作となりました!

沖縄のヒーロー「琉神マブヤー」に魅せられて

鶴:コワイハナシも含めワンダーが空気と色々やれるってことは僕らにとってはありがたいんですけど。そもそもなんで沖縄に関心を寄せてくれたのかが知りたいです。
江:凄いベースの話をすると…そもそも南の島好き(笑)
鶴:確かに江口さんはハワイも大好きですよね、沖縄もですか。
江:そうそう。ワンダーとやるようになる前から旅行で来てたし。沖縄で撮影する仕事は基本的に断らない。(笑)
鶴:やっぱ沖縄は恵まれているなぁ。
江:それと「琉神マブヤー」が凄い気になっていた。
鶴:僕らとやる前から?
江:前から。最初に接触したのはJTAの機体に琉神マブヤーがプリントされているのを見て、ポケモンジェットは見たことあるけど、琉神マブヤージェットを見た時に沖縄の地元のヒーローがこんなことになるんだーと思って。ちょこちょこ調べたりしてて、でも核心が分からなくて、作っている人に会いたいなと思っていたんですけど。
鶴:まさに山田さんの仕事ですよね。おかげで沖縄の仕事に関心をもってもらえた。
江:そんな中、たまたま鶴さんからウチの木綿(空気の社長)に仕事の依頼があって。木綿が「沖縄の会社が異常に面白い」って。「絶対会いに行った方が良い」って言われて。
鶴:そうでしたね、木綿さんに来ていただいて沖縄案件の相談をしました。その後、うちの社員を江口さんのところにインターンで送ったり。
江:そうそう来て、あっちゃこっちゃ連れて行きましたよ。その場でワンダーのCMを見せてもらって、思ったより、すごく出来が良くて。出来が良いっていうのは、ちゃんと整っているというだけじゃなくて、しっかり面白いなって。僕があまりにも沖縄の事を知らなかっただけなんだけど、意外とクリエイティブがあるんだなーって。ますます知りたくなった。

江口カン

鶴:僕らは沖縄でやっている中で、それまでビジネスのメイン商圏は沖縄っていう今思うとかなり狭い考えだったんですが、福岡に立脚しつつ世界的な仕事をしている江口さんや空気の皆さんに触れて、エリアは関係ないっていう発想を持つようになりました。沖縄って結構恵まれてて、空気も関心持ってくれたし、ASOBISYSTEMも沖縄が面白いって思ってくれたり、僕らのスキルというよりも沖縄という地理的優位性があって、これは利用した方が良いと思ってます。
江:大いに利用した方がいいですね。めちゃくちゃ大きい優位性だから。福岡に行きたいって言う人も凄く多いので、「だったら仕事しましょうよ!」って。入口は何でもいいと思っていて、逆に言うと入口がとにかく広ければ、いろんな人や仕事に接触できればその中でいいものが生まれる確率は上がるわけだから。

福岡と沖縄の特異性を優位性に変えていく

鶴:逆に、福岡で東京の仕事をしていて不便なことはありますか?
江:不便なことはいっぱいありますよ。だんだんしんどくなってきて、特に移動が。半分意地になっているところでもあるけど。同じ面白さのものが作れるんだったら東京にいるっていうものよりも、この面白いものを作っているのが福岡なの!?っていうとさらに価値が生まれるっていうのもあります。
鶴:オリンピックの映像(東京2020オリンピック・パラリンピック国際招致PR映像)を空気が制作した時の時の取りあげられ方も「実は福岡なんだ」っていうのは大きかったですよね。
江:そこに驚きがあるからね。
鶴:ワンダーもそこを目指さないといけないですね。
江:そこは絶対良いと思います。沖縄は福岡以上に場所の特異性が高いわけだから。福岡なんて外国の人は地名すら知らないですよ。沖縄は海外の人たちも知っている。福岡発というよりも沖縄発世界の方が皆腑に落ちるはずなんですよ。沖縄のグローバル企業はないんですか?
鶴:なかなかドメスティックなんですよね。あえて言えば、沖縄「県」ですかね。観光誘客とか。
江:県っていうグローバル企業があるとして、本当にある効果が世界で認められるとしたら、バジェットってもうちょっと上がってくる気がしていて。これも経済の話だから、結局マーケットのパイが小さい業種に関しては広告にもそんなにお金が使えないわけだから、マーケットが世界というものはバジェットが上がってくる。あとは、目の前で実証してみることが大切だと思っていて、そのためにコワイハナシみたいなドラマを実験的にやってみたりとか、何かの仕事で沖縄以外で話題になって、全国的に取り上げられて、その結果その企業に何かしらのメリットが生まれるっていう事例をいくつか目の前でやってあげると変わっていくんじゃないかな。
鶴:空気はその事例が豊富で、それが武器になって次につながっている。
江:18年やってるからね。

鶴:ここ最近も凄いですよね。やっていることが必ずといっていいほどニュースになっている。
江:あまりしょぼい話もしたくないんだけど。たまたまっていうかね。ずーとやってきたことが僕らのカタログになっているから、それを見た人が次、仕事を発注するっていうその繰り返しでしかないから。ほんとたまたまだよね。
鶴:あと、「ニュースになることを狙え」って江口さんが最近は強く言いますよね?
江:普通のTVCMを見てても通用しない。ある商品があって、タレントが出て良いよっていくらテレビで叫んだとしても人々はネットでコメントを見て決めるんだよねってなった時、今までの方法論は意味がなくなってきちゃうじゃないかなって。ちゃんとネットで話題にしていけるっていうことこそが、これからの広告には外せない要素だから。テレビでやるときも、イベントやるときもネットに話題になることを考えるし、ただで宣伝してくれるわけだから普通にやるよりも効果が3倍、4倍になる。

ネットでバズった「神スイング」の誕生秘話

鶴:ネットで取り上げる事を意識した時にどうしていますか?TOYOTA(「TOYOTA G’s Baseball Party」)もネットで「神スイング」が取り上げられていましたけど、あれってたまたまですか?
江:「神スイング」って名前はネットの住民たちが勝手につけてくれて、それで話題が加速したんだけど。
鶴:ラストに彼女がホームラン級の当たりを打つじゃないですか、あそこが最高の見せ場で話題のカットなんですけど、あれは当初からの狙いですか?
江:まぁ最高の見せ場なんですけど。面白いのが、ラストとトップバッターの女の子は最初の予定では逆だったんですよ。オーディションとかやって見比べて。でも現場に入って撮影の前日に皆の練習風景を見て、変えてみようかなって。こっちの子の方が4番バッターぽいなと、もう一人の子がどっちかっていうと華奢で。野球の監督と一緒なんだよね。試合の前日に打順変えてみようかなって(笑)それがドンぴしゃはまったっていう。
鶴:あそこで全部持って行きます。
江:そう考えると、どう拡散するかのいくつかポイントがあるのはあるんだけど、一番大切で外せないのが「面白いかどうか」で、ネットが意外と信じられるメディアだなって思うのは、面白ければ皆は話題にしたいという、人間にはその本能があるんだなーって。皆面白いものを知ると人に伝えたくなる。そんな本能を刺激できる本当に面白いものを作れれば拡散しないことはないなって。本当に面白いものが話題になるっていう良い時代ですよ。

江口カン 鶴田光介

アジアでウケる映画・ドラマが作れる予感

鶴:あとは、今後沖縄でやってみたいこと、これをやったらというアドバイスとか。
江:個人的にはやっぱり最初からやりたい項目の一つにオリジナル映画、ドラマですね。琉神マブヤーの中心人物、沖縄のドラマの中心人物である山田さんを紹介してもらって、話せば話す程エネルギーが凄いなって思って。東京で作られる映画やドラマとはまた違うものがこっちではできそうで、こっちで作った方が中国とかでうける気がする。それができたら最高。
鶴:アジア諸国との距離的な優位性があります。
江:東京の仕事の良し悪しはあるけど、どうでもいいノイズがあるんですよ。お金が集まるから色んな人が色んなことを言う。これじゃなかなか面白いもの作れないよなっていう局面が多々ある。
鶴:ワンダーもまだ結構色んなことができ始めて、コンテンツも今年は1つ立ち上げたいなと。
江:鶴さんは「ちんこすこう」(鶴田が開発したオリジナルちんすこう「子宝ちんこすこう」)が凄いから、あの鶴さんの初速の速さみたいなものを伸び伸びといかせる環境作りをした方がいいと思う。
鶴:あれも発売して9年目かな。結構売れ行きが落ちてないんですよ。
江:確かに修学旅行で女子高生が買うよね。買って帰って冷静になって、開けてみるとこれは親には渡せないなってなるでしょうね(笑)
鶴:友達や親に怒られたってツイートが多いんですよ。お土産はやはりコミュニケーションツールです。あげた時の反応とか、もらった時にその商品のことをネットに上げたいかどうかが大事。自分で食べるものじゃないし、コミュニケーションツール。けど実は味には相当こだわってるんですけどね。「普通の形はないんですか?」って問合せ来たりします(笑)
江:「ちんこすこう」はそこにストーリーがある。
鶴:「ちんこすこう」はまさにネット時代の商品で、ネットのおかげで拡散もするし、テレビでは無理。発売当初はエロ系雑誌とかスポーツ新聞のエロ記事くらいしか取材に来なかったけど、そのうちTwitterで広がり始めて次にラジオが来て、最近はベネッセの「たまごクラブ」が子宝商品として取り上げてくれたりしています。
江:こじつけも甚だしいけど(笑)
鶴:ちゃんと発売前に沖縄の有名な子宝神社で、製造に使用する金型に子宝祈願もちゃんとしているんですよ!ネットにその様子の写真もアップしています。
江:嘘ついてないところが大切だね。

沖縄的「いい加減さ」を楽しむことが面白い

江:コワイハナシを2回目やらせてもらったりして、俺の中で決めていることがあって、いい意味でのいい加減さを楽しむというか。そこを鍛えてもらっているつもりでいます。外国での撮影をするといい意味でいい加減なんですよ。アメリカとかもヨーロッパでもそう。日本はちゃんとしているなーってそのたびに感じるんだけど、グローバルにみると東京はちゃんとし過ぎている。金がないならそこをどうするかっていうと、いい手抜きなんですよ。ここは別に抜いたっていいじゃんって。その感覚を忘れちゃダメだなって。そこをちゃんと向きあって鍛えてもらっているなって感じ。
鶴:沖縄だと、今回も撮影した動画を消しちゃったりして(笑)
江:そうそう!あれは東京だと大騒ぎ!(笑)
鶴:動画をよく調べてみたら、無くなってたっていう(笑)。あれは、ウチの責任です。
江:それでも騒がないで、他でなんとかなっているので。コワイハナシのシーンでいうとヒューマンアカデミーで撮った警備員。レッスンスタジオなので鏡があって、カメラマンが写っちゃうなと。どうしようかなっと思って、カメラマンを警備員にしちゃえって。そうすると警備員が来てる感じになると。で、カメラを持っているのがばれちゃうから、カメラのところに懐中電灯持たせたら光で見えなくなるんじゃって考えて、出来上がりをみたら、みごとにうまくいっていて。あれをちゃんとやろうと思うとCGで消し込もうとする。
鶴:東京だとできちゃうから。
江:でもそうやってやると、どんどんお金がかかっちゃう。お金で解決しない為にどうしたらいいかって。 むしろ演出的には良くなったし。金をかけるんじゃなくて工夫して、いい意味で雑にやると意外と瓢箪から駒が出たりするから。面白いよね。
鶴:なるほど。
江:特殊メイクも自分達でやってね(笑)。ワンダーのメンバーもすごいよね。
鶴:好きだから熱中しちゃうんですよ。また今年も少しずつ仕事も増えているので、引き続き宜しくお願い致します!